その時、オレンジジュースの香りがした。
嘘だ。私はそんなに馬鹿じゃない。それは那央も分かっていたはずだ。幼い頃から、ずっと一緒にいたから。同じ場所の、同じ空気を吸って生きて来たから。
けれど、那央と私には大きな溝があった。その溝を避けるために、私は断った。断らなくちゃいけなかった。それは、才能。私達は幼い頃から小説を一緒に書いてきた。高校に入学してからはクラスメイトや友達に、自分の書いた作品を読んでもらうようになっていた。そのことで、また深まっていった溝。
那央にはあった小説を書く才能が、
    
…私にはなかった。

翌日、教室に上がるとクラスメイトの女の子が駆け寄って来た。
「夕香、那央ちゃんと喧嘩したの?」
「え?」
その子は、声のトーンを少し落とした。
「昨日那央ちゃんが、“夕香と友達になんてならなきゃよかった”って言ってたから」
頭が真っ白になった。
あの那央が。いつでも私を見て微笑んでいる那央が。
分からない。分からないよ。
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