その時、オレンジジュースの香りがした。
那央の書く作品は、いつも好評だった。
周りをあっと驚かせ、笑顔にさせるものだった。
『自分のこととなぜか重なる自然さがある』。そう言う人もいた。
それに引き換え、私のは…。
全く駄目だった。
『那央の方が上手かった』
『中宮さんのを読んだ後ならね…』
『ハードルが高すぎたんじゃない?』
冷ややかな言葉と、哀れんだ目が私を突き刺すだけだった。
私はそうだったから。那央と一緒にいることは、世界が色褪せることだったから。
那央だって、そうだったのだろう。執念深くて負けず嫌いで、ただただ無力の私なんて自分を霞んだ赤紫色にする埃でしかなかったはずだ。
思考が心の奥底まで到達しそうになった時。
「夕香!」
呼ばれる声がした。それは、那央のものだった。
思わず顔をしかめた。教室の入り口に立っている那央の元へ駆け寄り、口を開いた。
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