神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
『おまえ・・・・まさか、本当に、耳を塞いでたんじゃなかろうな?』
『何を言う、そのような事・・・あるはずなかろう?』
『だったら何故、嘆きの精霊が居なくなったとたんに正気に戻った?』
『・・・・ただの偶然だ、疑り深い男だな、おぬし?』
何やら、はぐらかすようにそう言った竜である青年の黒い瞳が、ふと、先程から、後方で、実に訳が解ないと言った表情をしているレダの美しい顔を見たのである。
綺麗な額に刻まれた、青い華の紋章。
アノストラールは、ハッと肩を揺らすと、ゆっくりとした歩調で、呆然としているレダの元へと足音も立てずに歩み寄ったのだった。
先程まで、仇である魔法剣士と鬼気迫る攻防を繰り広げていた、竜である青年の優美な銀色の長い髪が、吹き付ける風に揺れている。
『そなた、青珠(せいじゅ)の守り手だな?随分と驚かせてしまったようだな?許せ』
そう言った彼の美貌の顔立ちをまじまじと見やりながら、レダは、未だに事の顛末を理解できぬ様子で、蛾美な眉を眉間に寄せ、その綺麗な裸唇をゆっくりと開くのだった。
『一体・・・何が・・・・?』
『何のことはない、体が目覚めても、頭が目覚めなかっただけの話だ・・・・流石に、この私も随分と苦戦した故(ゆえ)・・・危うく力を使いきってしまうところであった』
類まれな美貌にそぐわぬ実に人懐こい笑顔で、アノストラールがそうレダに言う。
しかし、その背中に、訝(いぶか)しそうなシルバの視線が突き刺さっていることを、あえて気付かぬふりをしているのも、事実であった・・・・
シルバは、再び肩で大きく息を吐くと、利き手に白銀の剣を持ったまま、空いた左手を腰にあてて、訝し気な表情のまま、優美な銀色の髪が揺れるアノストラールの背中を見つめ据えた。
その時、深き地中に眠る紫水晶のような彼の右目が、視界の隅に何者かがうごめく姿を捕らえたのだった。
僅かに鋭く細められた視線の先に、地面にぐったりと横たわったままのあの少女の姿がある。
『何を言う、そのような事・・・あるはずなかろう?』
『だったら何故、嘆きの精霊が居なくなったとたんに正気に戻った?』
『・・・・ただの偶然だ、疑り深い男だな、おぬし?』
何やら、はぐらかすようにそう言った竜である青年の黒い瞳が、ふと、先程から、後方で、実に訳が解ないと言った表情をしているレダの美しい顔を見たのである。
綺麗な額に刻まれた、青い華の紋章。
アノストラールは、ハッと肩を揺らすと、ゆっくりとした歩調で、呆然としているレダの元へと足音も立てずに歩み寄ったのだった。
先程まで、仇である魔法剣士と鬼気迫る攻防を繰り広げていた、竜である青年の優美な銀色の長い髪が、吹き付ける風に揺れている。
『そなた、青珠(せいじゅ)の守り手だな?随分と驚かせてしまったようだな?許せ』
そう言った彼の美貌の顔立ちをまじまじと見やりながら、レダは、未だに事の顛末を理解できぬ様子で、蛾美な眉を眉間に寄せ、その綺麗な裸唇をゆっくりと開くのだった。
『一体・・・何が・・・・?』
『何のことはない、体が目覚めても、頭が目覚めなかっただけの話だ・・・・流石に、この私も随分と苦戦した故(ゆえ)・・・危うく力を使いきってしまうところであった』
類まれな美貌にそぐわぬ実に人懐こい笑顔で、アノストラールがそうレダに言う。
しかし、その背中に、訝(いぶか)しそうなシルバの視線が突き刺さっていることを、あえて気付かぬふりをしているのも、事実であった・・・・
シルバは、再び肩で大きく息を吐くと、利き手に白銀の剣を持ったまま、空いた左手を腰にあてて、訝し気な表情のまま、優美な銀色の髪が揺れるアノストラールの背中を見つめ据えた。
その時、深き地中に眠る紫水晶のような彼の右目が、視界の隅に何者かがうごめく姿を捕らえたのだった。
僅かに鋭く細められた視線の先に、地面にぐったりと横たわったままのあの少女の姿がある。