神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
「やめろウィルト・・・この女性(にょしょう)は誇り高い戦人だ・・・・その厳しい掟にしたがって戦場を駈けてきた強者(きょうじゃ)。それに屈辱を与えたのは他でもない、この私だ・・・・」
「しかし!!」
 納得出来ないような表情をして、ウィルタールはまじまじと、敬愛する主人の秀麗で雅やかな顔を見る。
 輝くような蒼銀の前髪の下で、スターレットは、何故か諦めたように小さくため息をつくと、ラレンシェイの剣の切っ先を躊躇いもせず片手で掴んだのだった。
 そんな彼の行動に、彼女の気強く美麗な顔が、いぶかし気に歪む。
「おぬし、何をするつもりだ?」
 鋭く輝いたままの両眼が見事な赤毛の下で僅かに細められた。
「私は、もうそなたと戦うつもりもない、かと言って、そなたの首を取る気もない・・・・」
「・・・・ならば、選択肢はもう一つしかない」
 やけに冷静な声でつむがれた彼の言葉に、茶色の瞳を細めたまま、紅色の唇で彼女はそう答えると、ゆっくりと彼の手中にある剣の切っ先を床に下ろしたのである。
「・・・・・・・・。」
 次の言葉を発する事のないスターレットの冷静な横顔を、一瞬、言葉を失ったウィルタールが、耳まで真っ赤に染めて、まじまじと見た。
 いくらウィルタールがまだ年若い少年とは言え、その沈黙が何を示唆しているのか全く把握できない訳ではない。
 相変わらず耳まで赤くしたまま、彼はついつい本音を口にしてしまった。
「!!?・・・・ス、スターレット様!?まさか・・・・・!?
そんな事をしたら・・・・それがリーヤ姫に知れたりしたら!首を撥ねられますよ!?」
そんな年少者の言葉に、スターレットは思わず愉快そうに笑った。
「あのお方なら、それぐらいやるかもしれぬな」
 この国の第一王女リーヤティアが、ロータス家のこの雅な魔法使いを好いているのは、リタ・メタリカの宮中ではあまりにも有名な話である。
 そんな彼女の気持ちぐらい、彼女と接する機会が多く、凡人よりも数倍六感が優れているスターレットなら、知らない訳がない。
< 14 / 198 >

この作品をシェア

pagetop