神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
ジェスターは、チッとし舌打ちして、金色の剣を横に切り返すとその唇で古の言語を紡ぎ出したのだった。
「ザイン・アーレフ(神炎乱舞)!」
 眩いばかりの黄金の輝きが妖の剣にほとばしり、その光がジェスターの栗毛の髪を虚空に揺らめき立たせた。
迅速で手首を翻し、眩い金色の刃を一気に振り下ろすと、次の刹那、轟音と共に、その切っ先の床から深紅に燃える幾筋もの爆炎が、揺らめきながら立ち昇ったのである。
 それが激しく燃え盛る火柱となって八方向に走ると、異空間より出でた魔物達が、ジェスターの体に爪すら立てられぬまま、激しく立ち昇る深紅の炎に焼かれて一瞬にして灰となり虚空に乱舞したのだった。
 スターレット同様、このジェスターもまた、補助呪文と呼ばれる言葉を紡ぐことは少ない。
 それは、彼もまた、その体内に強大な魔力を宿す一族の血を引いているが故(ゆえ)・・・
 その時、宙に体を浮かせたゼラキエルの下限から、空を引き裂く烈風が渦を巻く蒼い光を伴って豪速で飛来してきたのだった。
 ゼラキエルの緑玉の両眼が、忌々しそうに鋭く冷淡に細められる。
「リタ・メタリカの犬めが・・・・・小ざかしいわ、ロータスの者よ!」
 ゼラキエルの体を囲むように黒炎が立ち昇ると、死を招く災厄の烈風が一瞬にしてその場から消え失せる。


 その向こう側には、深紅に輝く両眼を鋭く細めた、ロータス一族の大魔法使いスターレットの姿があった。
 ロータスの魔法使いは杖を持たない。
 古より脈々と受け継いできた蒼き魔狼の血が、杖を持たずともその魔力を扱うことのできる、特異な能力をそこに産まれ出でた者に与えているからだと、後世には伝えられている。
 彼を囲む蒼き疾風が、その蒼銀の髪を虚空に乱舞させていた。
 雅な顔立ちを鋭利に歪め、スターレットは、爛々と輝く深紅の瞳でゼラキエルを真っ向から睨み据える。
「おぬしに【鍵】は渡さない・・・・」
「相変わらず、ロータスの飼い犬根性は直っておらぬようだな」
 彼の旧知の友であるジェスターと、全く同じ口元で、魔王と呼ばれた青年はニヤリと不気味に微笑んだ。
 刹那。
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