神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
       *
 冷たい風が吹き降ろす深い森の最中を、速度を落とした黒毛の騎馬が、倒木を飛び越えてカルダタスの高峰に近づいていた。
 カルダタスの蒼い峰を渡る風の精霊が、ざわりと、何者かの気配が近づいてくることを知らせる高い警告の声を上げる。 
黒毛の騎馬の手綱を取る、白銀の森の守り手、魔法剣士シルバ・ガイは、急速に迫って来る、殺気立つ見知らぬ気配に、本来なら穏やかな印象を与える精悍で整った顔を、不意に鋭く歪めたのだった。
深き地中に眠る紫水晶のような右目が、閃光の如く閃めいた。
彼は、利き手で腰の鞘から神々しく白銀に輝く魔剣を抜き払う。
『シルバ!誰かが来る!』
そんな彼の背後で、サリオが、何かに気付いたように声を上げた。
『サリオ、君は隠れていろ、ラウドを頼む』
『あ!待って!私も行く!』
『駄目だ!!いいと言うまで出てくるな!!』
いつになく鋭い口調でそう言い放つと、シルバは、純白のマントを翻し、躊躇いもせずに疾走する騎馬の上から、草の香りが萌えたつ地面へと飛び降りたのだった。 
『シルバ――――!!』
 どこか不安そうなサリオの声が、愛馬の馬締の音と共に遠ざかっていく。
 その声に振り返ることもせず、シルバは、鋭く閃く紫水晶の視線を、素早く周囲に走らせた。
 山脈から吹き付ける冷たい風に、彼の羽織った純白のマントが翻り、その長い黒髪が踊るように虚空に乱舞する。
 柄に銀竜の見事な彫り物が施された『ジェン・ドラグナ(銀竜の角)』と言う名の白銀の魔剣を構えると、マントの下の広い胸元に、不意に眩い銀色の輝きが灯った。
 その光と共に、二匹の竜の美しい彫り物を施された白銀の鎧が、彼の体を守るかのように一瞬にしてそこに出現する。
 聖剣と呼ばれるジェン・ドラグナを扱う者だけが纏うことの出来る、この白銀の鎧は、その昔、妖精達の手により銀竜の鱗から作り出されたと言われ、それは、人の扱う武器など到底突き通すことも出来ない、軽く強固な鎧であった。
 それが彼の体を覆ったということは、そこに、明らかな殺気を持って彼に危害を加えんとする何者かがいるという証・・・・。 
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