神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
   *
 天空の満月だけが、その金色の光の切っ先を荒れた大地に向けている。
 夜風に砂塵が湧き上がり夜の闇に乱舞した時、一騎の騎馬の機影が、月明かりだけが照らし出す荒涼とした大地に馬蹄を響かせ、北に向かって疾走していた。
『何故着いてきたんだ?森に残っていろと言ったじゃないか?』
 疾走する騎馬を巧みに操るその青年は、人の言葉ではない古の言語を用い、形の良い眉を眉間に寄せて、僅かばかり怒ったような表情で、黒馬の後輪にちょこんと横座りする、煌(きらめ)くようなエメラルドグリーンの髪の少女にそう言った。
 漆黒の長い髪が疾風にたなびいた。
 深き地中に眠る紫水晶のような右目が、純白のマントが翻る肩越しに、ちらりと少女の可愛らしい顔を見る。
 本来なら、右目と同じ紫水晶の瞳が覗くだろう左目には、大きな刃傷があり、その瞳から光を奪っていた。
 腰に履かれた鞘に収められた、神々しい異彩を放つ美しい白銀の剣。
 黒い前髪が揺れる広い額には、竜の姿を象った見事な彫り物が施された銀色の二重サークレットが飾られており、それは強大な魔力を持つ魔剣を操る最強の戦人、魔法剣士たる者の証であった。
『あら、だって、怪我をしたら誰が貴方の傷を治すの?アノスは行方不明になってるのよ?そうなれば、やっぱり私しかいないじゃない?』
 虹色に輝く二つの大きな瞳が、彼の表情も気にせずにどこか嬉々としてあどけなく微笑んだ。 疾走する騎馬の後輪に不安定な姿勢で座っているにも関わらず、彼女の華奢な体は振り落とされることはない。
 エメラルドグリーンの髪を、疾風と月影に躍らせて、やけに悪戯な表情する彼女は、明らかに普通の人間の少女ではない。
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