全てを愛して
その日は、滅多にない休みの日。
昔お世話になったホテルの客室清掃の仕事の手伝いに来ていた。
「急にごめんねー。3人もインフル出ちゃって・・・本当助かったよ。」
「何をおっしゃいます。ずーっとお世話になってきた職場でSOSが出れば、そりゃ飛んできますよ。」
「でも、滅多にない休みだったんじゃないの??忙しいんでしょ??」
「ふふふ、そんなの気にしないで下さいよ。」
15歳で中学を卒業して、すぐここにアルバイトに来た。
周りは自分より30歳も40歳も上の人で・・・
とても温かい人達。
幼い頃両親を事故で亡くした私にとって、ここはある意味安息の場だった。
本業もその頃に始めた。
3年前、正社員として雇われることになり、こちらも副業として続けたが、主任に昇格するにあたり、去年辞めてしまったのだ。
「いつでも言ってください。」
「ありがとね。皆心愛ちゃんが辞めてから元気なくなっちゃったから、たまには顔見せに来てあげてね。」
「了解です。」
「・・・あっ・・・しまったなー・・・ステイされてるお客様の時間指定入ってた・・・」
「私行きますよ。」
「○芸さんだけど大丈夫??」
○芸とは、芸能人の略で、ホテルで使われる隠語だ。
「大丈夫ですよ。鍵ください。すぐ行ってきますから。」
鍵を受けとり、部屋まで急ぐ。
基本的にステイ清掃はお客様が外出されてから始めるため、鍵がないと話にならない。
○芸さんともなれば特にそうだ。
誰が泊まってるのか聞いてないけど・・
まぁあんまり興味ないからいっか。
ピーンポーン
「客室係でございます。客室清掃に参りました。」
「・・・はい・・・」
えっ、今声した!?
時間間違えたのかな・・・
ガチャッ