わん もあ ちゃんす
【多岐川 翔哉side】
えいちゃん…?いや違う、俺は『えいちゃん』じゃない。俺は…翔哉だ。多岐川、翔哉。
でもおかしい。俺は死んだはずだ。あの子を助けるために、トラックの前に飛び出して。
なんで小学校の入学式にいるんだろう。
なんで女の子の格好して…?
そんな事を校長や教頭が話してる間、ずっと考えていた。小学一年生向けだからか、話は中学や高校の時より断然短い。
けれど、その小学校は俺の母校ではなかった。ここの小学校、西川小学校は俺の母校の小学校、東山小学校とは俺の通っていた高校を挟んで真反対にある。
色んな物語で見たループ物とは違うらしい。
でも、この体の女の子『えいちゃん』の名前はどこかで聞いたことがあるような気がした。それが誰なのか、なんなのか分からなくて気持ちが悪い。モヤモヤする。
トイレで自分の顔を見た。結構な美少女だと思う。それも美人顔の方の。モテるだろうとは容易に想像がついた。
この体が俺と同い年なら弟はもう三歳だな、と考える。『えいちゃん』には兄弟はいないらしい。弟の存在をうっとおしいと感じていたけれどいなければいないで寂しいものだ。
ずっとそんなことを考えていたらいつの間にか家にいた。もちろん、『えいちゃん』の家だ。
おめかし用の服を着替え、ベッドに転がる。
ーあの子を助けられたのは、本望だ。俺が死んだとしても、あの子が普通の生活を続けることが出来るのならば後悔などはしない。
ーでも…もう少しだけ、生きてみたかったとも思うのだ。
ー16年の歳月は人生と言うには少し短すぎた。
小さい女の子の体だからかあまり体力がないらしい。重い瞼を必死に持ち上げて俺は考えた。
ー『えいちゃん』の意識は、どこにあるんだろう?
そのまま寝てしまった俺は、寝る直前に考えたことなど忘れてしまった。
< 3 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop