女を思い出す時
「待てぇ~」

今年の桜の季節は 歩き始めた孫を追いかけ歩く。

「錬 素早いな。」

夫が笑顔で 孫の錬を抱き上げた。

「ばぁばなら 追いつかないぞ。」

「失礼ね。」

「じぃじは 錬のために若くいる努力してるからな。」

五歳年上の夫は 出会った時と変わらない。
少々増えた白髪と 目尻の笑い皺が少し深くなった程度で
もはやもゴルフ焼けした浅黒い肌に
タバコは毒と絶対に吸わなかった白い歯が光る。

すれ違う女性の視線を 妻である私は
少々複雑な気持ちで見ている。

優しくて穏やかで明るくて
心のすさんだ私をいつしか 普通の女にしてくれた。
こんな私を選んでくれた感謝。

でもその立役者は

「お~~い!!」

後ろから明るい声が追ってくる。


娘の 真美。
夫の連れ子・・・・・・。
真美が なぜか私に強烈になついて この結婚は成立した。


「焼肉の用意できたって!!」

真美が結婚して 子供が生まれて
血が繋がってないけど 私も一端のばぁばになれた。

「のんママ たくさん食べてね。」

彼女が私を のんママと呼ぶのは
実の母親との区別。

結婚する時 夫に言われたのは

「真美の母親を一生忘れる事はないから
これからもそこだけは理解して欲しい。」

真美の母親は 妊娠中にガンが見つかり
真美の歩き出した姿を見てから亡くなったそうだ。

今でも 命日には二人そろって残していった
ビデオを見て手を合わせる。

私はそんな夫の一途な想いが素敵だと思った。
嫉妬をしそうになる事もあったけど
彼にとって私は二番目の存在だから・・・・
そう思っていくうちに いつしか三人で命日を
過ごせるようになった。

美しい女性だった。
夫にお似合いの そして彼女はいつまでも
若々しいまま・・・・時が止まっていた。



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