女を思い出す時
夫を送り出して私はドレッサーの
アクセサリーの引き出しの下にしまってある
封筒を手に取った。


中から 四つにおられた
ノートの切れ端が 二枚重ねて出てきた。

翔からの手紙だった。

あの日別れる時 手渡された手紙。

「帰ってから読んでくれる?」

「手紙なんて嬉しいんだけど。」

別れがたくてまだ制服を着たまま抱き合っていた。

「もう二度と手紙なんて書かないから。」

「そんな事言わないでまた書いてよ。」

翔は照れくさそうに笑った。

「明日は学校で会えるね。」

私はそう思って疑ってもいなかった。

「うん。」

「うまく時間合わせてまた
二人っきりになれるとこ探そうね。」

「うん。」

幸せだった。

「紀香・・・・」

また長いキスをした。
体中が熱くなって 翔を欲しいと思う。

「やばい せっかく用意したのに
もう やばい。
紀香 早く 行こう。」

時間が恨めしい。
まだまだ私の体は 翔を受け入れたくて
女のくせに ムラムラしている。


「おじゃましました。」

二人で博人の家に元気に挨拶した。

「行こうか。」

翔が私の手をとった。

「時間ヤバいから 走るぞ。」

翔と走る街路樹の下。

「紀香!!」

「ん?」

「愛してる!!
俺ずっとずっと紀香だけだ!!」

「やだ それさっき言ってくれたらよかったのに
こんなうれしい告白ゆっくり聞きたかった。」

「やだよ 恥ずかしいんだから。」

「私もだよ。」

「ありがとう。」
その声が少しだけ 涙声だったような・・・・
その時は 勘違いかなって思ったけど


愛してる

その言葉を 翔から聞くことはもう
二度となかった。


まるで学校から帰ってきたように玄関に立っていたら
家政婦が迎えに来た。

その車に乗り込んで 翔を見つめる。

翔は子供みたいに ぴょんぴょん飛んで
私に向かって手を振った。

「バカ・・・・。」
愛おしい翔 
その姿がもう二度と見る事ができなくなるなんて

必死に手を振っている翔が
あの時何を考えていたかなんて
私には わからなかったんだ。
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