女を思い出す時
夫の朝食をセットして
いつもより早く家を出た。

夫に会いたくはなかったから・・・・・。

休憩室に早めに入ってスマホでも見てるつもりで
自転車を病院の駐輪場に停めて鍵をかけた。


タバコの匂いがした。
病院内敷地内禁煙という事で 耐えきれない患者は
いろんなところで隠れてタバコを吸う。

その吸い殻を見つけて片づけるたび腹が立つ。

吸うなら自分で片付けろ。

人影が見えて 煙が見えた。
吸ってはいけないと注意したいけれど
せめてここに捨てないでと注意はしたい。


案の定 吸い殻を足で踏みつけた。

「すみません ここに吸い殻
捨てないでもらえますか?」

いつもなら黙って通り過ぎるところだけど
昨日からのイラつきで思わず言葉を発した。

「あ  すみません。」

素直に拾って 困ったように手に持った。
あまりに素直に拾ったから

「今度からは気をつけてくださいね。
それにここも禁煙ですからね・・・・。
そのゴミもらいます。」

鞄から ビニール袋を出して
吸い殻を受け取り 一瞬顔を見た。


え・・・・うそ・・・・・。

目が隠れるほどのボサボサのひげ面だけど


翔・・・・・・?


思わず 動きが止まった私に
相手も驚いて 私を見た。


「嘘・・・・・。」


時が止まった。

「翔?」

ボサボサのひげ面からタバコと
頭皮の臭いが混じった臭いがする。


真美が夫に怒る 加齢臭的な強烈な臭いだった。


その人は慌てたように私から離れようとする。


「待って!!」


「来るな!!」

そう言うとその人は走って病院の裏口へ消えて行った。


ドキドキ ドキドキ・・・・・

胸が締め付けられるようにドキドキした。

不潔な感じだったけど・・・・・
あの目は・・・・あの目は翔だ。


私は翔の前髪を切った事を思い出した。


あの病室の同姓同名は・・・・・
翔だったんだ。



もうとっくにいないお腹を触ってみた。


会えたよ パパに・・・・・。


吸い殻の袋を握り締めて深呼吸する。
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