女を思い出す時
帰り道の公園のベンチで翔が座ってた。
気になってみてたら

前髪を無造作にもちあげてハサミで切った。

思わず驚いて声をあげたら
翔がこっちを振り返った。

「ちょっと!!」

前髪はひどいことになっている。

「ヤバいってその前髪!!」

あまりの悲惨さにかけよった。

「マジで?」

「床屋行けばいいのに ひどいから!!
明日学校行ったら 笑いものだよ。」

「そんなひどい?」

前髪は眉毛の上までザンバラに切られている。

「床屋で直してもらったら?」

「や そんな金ないから。」

「じゃあ ちょっとハサミかして。」

翔から ハサミを受け取って

「これ 工作用でしょ?」

「家からもってきたんだ。」

「直してみるけど 最初がひどいから
期待しないでね。」

自分で前髪を切るのは慣れていたけど
人の髪の毛を切るのは 初めてだった。

それも 男子
よく考えてみれば 顔を知ったのはさっき
話したこともなかった。

「目 つぶって・・・・。」

さっきまで 長い前髪に隠れていた 暗い目

でも 話しかけたら優しい目をしていた。
目をつぶると まつ毛が長かった。

ドキドキ・・・・・

え?今 私ドキドキしてるんだけど・・・・

それに気づいたら手が震えた。

「大丈夫?さらにひどくしないでね。」
目をつぶったままの 翔が言った。

「さっきも言ったけど
もう今が悲惨だから 期待しないで。」

わざとに強めに言う。

サラサラな髪の毛が パラパラ落ちて行く。

目をつぶっている翔の顔を まじまじと眺める。
ドキドキ 心臓の音が聞こえてしまわないか
心配になるくらい。

「終わった?」

「あ うん。」

目を開けた 翔と目が合った瞬間
私は恋に落ちた。


一瞬 お互いを見つめ合っていた。
翔も 同じ気持ちだったって後で知った。


「これなら大丈夫だと思うよ。
先生もビックリするよ。」

ときめきを押し殺し ハサミを返した。
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