甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
間宮さんが私の住むマンションの下までもうすぐ迎えに来ることになっている。

時間が来たので、大きなスーツケース一つと、もう一つ大きめのリュックを背負って外に出た。

相変わらず運動不足の私の足元はおぼつかない。

にもかかわらず、私のマンションは三階建てなのでもともとエレベーターはなくこの大荷物を持って階段を降りなければならなかった。

ふぅ。

折り返しの階段は全部で30段ほど。踊り場でいったん休憩を入れればなんとか降りれそうだ。

というか、これしきのことでくたばっていたら、これから先、働きながらトリマーの資格を取るための専門学校に通うことすらできないような気がする。

まずは願掛けといきましょうか。トリマーの資格が取れるかどうかの。

私はよいしょとスーツケースを持ち上げ、一段一段ゆっくりと降りていった。

持ち上げた荷物は想像以上に重たく、背中の重みもプラスしてバランスをとるのが難しい。

なんとか踊り場までたどり着き、少し休憩。

遠くにセミの鳴き声が聞こえていた。

あともうひと踏ん張りだわ。

額の汗を手の甲で拭うと、手のひらに食い込んだスーツケースの取っ手の跡が赤く凹んでいるのに気づく。

ヒリヒリとするその跡にパン!と両手を合わせて気合を入れ、もう一度荷物を持ち上げた。

そして、一歩ずつ慎重に降りていく。

あと少し、あともう少し……。背中に冷たい汗がツーっと流れ落ちるのがわかった。

必死に自分を鼓舞し、近づいてくる地面をにらみつける。

その時、私の右足のサンダルが階段の角にひっかかった。

あ、やばい!


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