甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
そう思った瞬間、今まで踏ん張っていた体勢が見事に崩れ、そのままスーツケースが手から離れ階段を転げ落ちていく。

そして、私もなんとか体勢を戻そうと試みるも、ひっかかった足を軸に左足もその下の段を踏み外し体が一瞬宙に浮いた。

それはまるでスローモーションのようにはっきりと今の状況を理解し、その先どうなるかまで見通すことができた。

私はこの直後、間違いなく階段を滑り落ち、既に地面に転げ落ちたスーツケースの上に覆いかぶさるだろうって。

いきなりこんな無様な姿態を迎えに来てくれた間宮さんにさらけ出すことになるなんて!

倒れていく自分に観念して目をつむった。

そろそろスーツケースの上に体がぶつかる頃だろうか。

その時、ふわっと爽やかな香りが鼻腔をかすめ、温かくて強い何かが私の体を支えた。

私の背中をしっかりと抱きとめてもらっているような安定感。

倒れてない?

私はゆっくりと目を開けた。

「間に合ったぁ……大丈夫?」

目の前に間宮さんの心配そうな顔があった。

「きゃっ!」

まさかの登場に驚いてそんな声が出てしまう。

こんなに近くて、間宮さんの体温が直に伝わってくることがあまりにも恥ずかしくて、せっかく助けてくれた彼の腕をぐっと押しやりその体から離れた。

あまりにふいの状況に心も体もパニックに陥っていた。

ドキドキしていたところに更に拍車をかけるようなシチュエーションに。


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