甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
リュックを抱えたまま助手席に乗る。

大きなリュックで顔の半分が隠れてしまったのを見た間宮さんは「それもトランクに入れればよかったね」と笑った。

昔から大事なものを入れてるバッグは自分でしっかりと持っておく癖がついていたけれど、さすがにこのリュックは大きすぎる。

「とりあえず後ろの座席に置いておいたら?ほら、貸して」

と彼に促され、リュックを預けた。

間宮さんは助手席と運転席の間に体をねじり入れひょいとそのリュックを後部座席に置く。

置いた後、再び運転席に座りなおした彼の腕が私の肩に軽く当たった。

たったそれだけの接触ですら、ドキドキして顔が熱くなる。

こんなんじゃ、一つ屋根の下で一緒に住むなんて心臓がいくらあったって足りない。

彼はエンジンをかけ、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

しばらくは戻らないであろう近所の街並みを目に焼き付ける。

次にこの場所に帰ってくる頃には何か変わってるんだろうか。

それとも何も変わらないのかもしれない。

リュックがなくなって自分の手のやりどころに迷いながら、両腕を組んでようやく落ち着く。

横で間宮さんがくすっと笑い尋ねた。

「落ち着かない?」

私は前を向いたまま「はい」と答える。
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