甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
まだ自分の体は小刻みに震えていた。

味わったことのない恐怖。今までの自分だったらすぐに逃げだしていたかもしれない。

それを踏みとどまったのは樹さんのためだと思ったから。

でも、結局樹さんに助けてもらっていたんじゃ意味ないよね。

軽くため息をついて、私を心配そうに見つめているぷーすけをぎゅっと抱きしめた。

柔らかくて温かいぷーすけの体が私の震える体に少しずつ落ち着きを取り戻していく。

樹さんたちがいる部屋から時々聞こえてくる話し声は、少しずつ穏やかになっているようだった。

10分ほど経過した頃だろうか。

「凛」

部屋の中から彼が私を呼ぶ声が聞こえた。

ぷーすけを抱いたまままだ少し震える体をソファーから起こしゆっくりと部屋に足を踏み入れる。

扉のすぐ前に、三角座りをして項垂れた田丸さんを見下ろすように樹さんが立っていた。

「田丸をこのまま警察に突き出してもいいんだけど、結果としては未遂に終わっているからそのまま釈放になる可能性が高い。その上、警察を呼ぶことになったら凛もさっきの状況を詳しく事情聴取されることになりかねない。僕もこいつをどうするか今かなり迷ってる」

声は穏やかだったけれど、ぐっと握りしめた手と田丸さんを見下ろす彼の目の鋭さからまだ憤りが消えていないことが伝わってくる。

きっと私のために……。


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