甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
そして、更に顔を近づけて言った。

「こ・う・い・う・人間」

そして、私の頬を片手で掴み自分の方に顔を向けさせた。

細い目の奥がようやくはっきりと見える。

ギラギラとしたその目は、相手の心の底をえぐってもどうとも思わないような冷たい目。

これ以上抵抗できないかもしれない。

彼の腕力は、今まで他のどの男性にも感じたことがないくらい強かった。

何も恐れない闇の世界で生きてきた力。

田丸さんの顔が再び近づく。

ぐっと目と唇をつむった。心だけは絶対持っていかれないように。

その時、バタン!と大きな音を立てて扉が開いた。

「凛!!」

「い、樹さん!」

その扉の向こうに見たこともないくらい怖い形相で田丸さんをにらみつけていたのは樹さんだった。

「お前、何やってんだ?」

樹さんは私を羽交い絞めにして今にもキスをしようとしていた田丸さんを物凄い勢いで引きはがし、彼の上に馬乗りになった状態でその顔を一発殴りつけた。

そして、私の方に顔を向けると「大丈夫か?とにかく凛はこの部屋からすぐに出て」
と言って、私を安心させるかのように少しだけ口元を緩めて頷く。

震える体をなんとか起こし、よろよろと部屋から出るとぷーすけが鼻を鳴らしながら足元に飛びついてきた。

「ぷーすけも怖かったね」

私はすぐにぷーすけを抱き上げると、ソファーに腰を下ろした。

部屋の向こうで話し声が聞こえる。何を話しているのかはわからないけれど、時々樹さんの厳しい口調が響いている。

いつも冷静で穏やかな樹さんのあんな激昂した姿を見るのは初めてだった。





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