甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
樹さんが舵を握る船はゆっくりと港を離れていく。

次第に速度を上げ、水しぶきが甲板にいる私の頬に当たる。

後方には船の進んだ跡が白い泡の轍となって港から続いていた。

甲板から通路を抜けて操縦席に入る。

彼がサングラスの奥から優しく微笑むのがわかった。

樹さんのそばなら、どこにいても居心地がいい。

それは、どこにいても彼が微笑んでくれるから。

1時間半ほど走った先は、もう全面水平線だった。
樹さんの船以外、何も浮かんではいない。

船の下にとても濃い青の海が広がっていた。

その色は海の深さを物語っているようで突然怖くなった私は彼の腕をぎゅっと掴む。

「大丈夫だ。海は今とても穏やかだから」

私の気持ちを察してか、彼はそこで船を停止させた。

樹さんの言うように波はとても穏やかで、船はほとんど揺れていない。

「凛も朝早かったし疲れただろう」

樹さんは私の手を握ったまま操縦席を出ると、船内に続く階段を下りていった。

ソファに腰掛けると、私の肩を抱き寄せる。

「ようやく二人きりになれた」

そう言って微笑んだ彼は片手でサングラスを外し、私の目を正面から見つめた。

「愛してるよ。凛」

そして、私の頬に手のひらを当て、そのまま唇を塞ぐ。

甘くて切ないあの初めての瞬間を思い出し、鼓動が激しくなっていく。



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