甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「あら、いつの間にかもうこんな時間?」

安友さんも置時計に目をやり、首をすくめた。

「今日はあなたがいてくれて本当に助かったわ。ありがとう」

彼女はそう言うと優しく微笑み厚みのある柔らかい手で私の手をそっと握る。

「いえ、お役に立ててよかったです」

私も安友さんの手をそっと握り返した。

安友さんはすぐにタクシーを手配してくれ、二人で玄関先に向かう。

ゆっくりと向かっていると突然安友さんが私にくるっと顔を上げて笑った。

「間宮社長っていい男よね。あなたはどう思う?」

「どうって言われましても……」

私はきゅっと口を結んで、自分の感情が表に出ないように堪える。

「彼は忙しくて仕事の鬼だけど、とても心の優しい男性だと思うわ。私も何度も助けてもらったもの」

「はい」

なるべくそっけなく答えてみる。

「あれだけの能力と容姿を持ち合わせているのに、どうしてか彼の近くに女性の影をみなかったけれど、あなたはそんな彼に留守を頼まれるなんて少し特別なんじゃない?」

「そんなこと……ないと思います」

顔がカーっと熱くなる。今ここが暗闇でよかったと思いながら、額に落ちた前髪をかき上げた。これ以上に聞かれたら私の気持ちがばれてしまいそうで怖い。

それなのに、安友さんはしつこく食い下がる。

「どうしてそんなことないだなんて言えるの?」

「私は、間宮社長のお眼鏡にかなうようなそんな大した人間じゃないですから」

「そうかしら?あなたは十分素敵よ。だってさっき、なりふり構わず私を助けてくれた。こんなにまっすぐな瞳を持った勇敢な女性に会うのは久しぶりだわ」


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