甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
間宮さんの家に戻り、ぷーすけに水と餌をやる。

そして自分の荷物をまとめた。

ぷーすけは私が荷物をまとめているのを鼻を鳴らしながら見ている。

「こいつ、わかってるんだな。広瀬さんがここからいなくなっちゃうの」

腕時計を付けなおしながらそう言った間宮さんに私は首を傾げて笑った。

「用意できました」

私は小さなボストンバッグを持ち上げて間宮さんにぺこりと頭を下げる。

「ほら、ぷーすけ、広瀬さん帰るぞ」

ぷーすけは、もう会えなくなるかもしれないのに、リビングから私を見つめながら動こうとしなかった。

もちろん、また帰ってくるよね?っていうような顔をして小さく尾を振る。

こんなにも自分が必要とされてるって感じた二週間はなかったかもしれない。

「ばいばい」

私はぷーすけに手を振り、リビングを出た。

玄関で靴を履くと、目の前のシューズボックスの取っ手にかけられたぷーすけの散歩用の紐が目に入る。

なんだろう。

ぷーすけとの楽しかった二週間が走馬灯のように蘇ってきた。

そのまま動けなくなる。

もっとぷーすけとこのうちにいたかった。間宮さんを感じるこの家に。

胸の奥がきゅっと締め付けられる。

「どうかした?」

玄関の扉を開けて待っていた間宮さんが心配そうな顔で私の顔を覗き込んだ。



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