甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
間宮さんの顔を見た途端、こみあげてきた気持ちと一緒にツーっと目から涙がこぼれ落ちた。

「すみません」

すぐにポケットからハンカチを取り出し涙を押さえる。

その時、ふわっと爽やかな香りと共に私の体に何かが覆いかぶさった。

私、今どうなってる?

私の顔は誰かの胸の中に埋まっていて、私の背中には誰かの腕が強く巻き付いている。

ひょっとして、抱きしめられている?

頭の中が混乱して、冷静に考えられないけれど、どう考えても私を抱きしめているのはさっきまで目の前にいた間宮さんだよね?

誰かに抱きしめられるって、なんて気持ちがいいんだろう。

丁度いい体温と体の厚みがさっきまで苦しくなっていた気持ちをゆるりと解いていく。

体にドクンドクンと彼の迫力のある鼓動が私の鼓動とシンクロしている。

「いつでもぷーすけに会いにきて」

間宮さんが私の耳元でささやいた。

そして突然彼の体が私から離れ、ふわりとした風が二人の間を抜けていった。

「行こうか」

今のは何だったの?

って尋ねたくなるくらい、間宮さんはあっさりと微笑み再び私のために玄関の扉を開けている。

リビングでぷーすけが一度だけ大きな声で鳴いた。

「はい」

その鳴き声に押されるように私は玄関から飛び出す。

玄関の扉をロックする彼の背中を見つめながら、心も体もふわふわしていた。

ふわふわした気持ちのまま地下駐車場に停めてある間宮さんの車の助手席に乗り、車は地上に出て行った。

もうすぐ午後七時だというのに、まだ空はほんのりと明るい。








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