図書館
あいつはさっきこの店から
出てきたばかりとは思えないほど、
たくさん食べて、たくさん飲んだ。

そしてそれ以上にたくさん喋った。
おれの話なんて聞かなかった。
おれが話さなかったからかもしれないが、
あいつはおれがタバコを半箱吸う間、
つまり、だいたい2時間くらいかな。
ひたすら、ずっと、話し続けた。

ほら、酒を飲んでると、
いつもよりタバコが吸いたくなるよね。
いつもは3時間くらいかけて半箱吸うけど、
酒を飲んでたから2時間くらいだと思う。

で、その、夕立みたいなお喋りの後、
あいつはおれに、
何の仕事をしているのかを尋ねたんだ。

あいつがずっと話している間は、
おれは4と3のカードだけしか持ってないで
「大貧民」をプレイしているような気持ちだった。
ずっとゲームが進むのを見てるだけだったのが、
やっと3を出してくれたような気持ちだった。

この4を出したら
後はずっとあいつの番が続くとしても、
唯一のおれの番なんだから、
おれはきちんと4を出した。

「駅の北口に大きなカラオケがあるだろ。
あのビルを管理してる」

あいつはあきれたように、
興味がないことを伝えるためか、
大きな声で

「へーえ」

と言った。

少し、無言の時間が流れた。
よく分からない時間だった。
おれは4を出したんだ。
次はあいつの番だった。

「でも、管理人って楽そうでいいよね。」

おれは説明した。

「管理といっても、
ビルにずっといるわけじゃないんだ。
だって、管理しなくちゃいけないビルは、
他にもたくさんあるからね」

「じゃあ、何をしてるの?」

「おれはテナントから入る金を勘定してる。
おれの仕事はそれだけだよ。
毎月どれだけ入ってくるか。
他は全部従業員がやってくれる。
だから、普段は事務所かパチンコで時間を潰してる。
まあ、楽だって部分は間違いじゃない」

あいつが初めておれの目を見たような気がする。

「それってあのビルを持ってるってこと?」

「そうだよ」

「その不動産屋の社長ってこと?」

「そうだよ。その通り」


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