桜の木に寄り添う

描き続けていくために

なつみとリエがお店へ向かっていた。

 ……その頃。ヒロキは絵を描きながら今後の将来について、考え込んでいる。

 俺がなつみに渡した絵。
 大好きな桜の木の絵を渡したが、色々な意味が含まれていたのだ。

 あれは、昔の記憶のままを表現したものだった。

 今のなつみには、昔みたいな無邪気な少女のような笑顔がないんだ。

 たとえ、暗い過去があったとしても人は前を向いた時点でまた、輝きを取り戻せるはずだ。
 そんなふうにヒロキは考えていたのだった。

 太陽のような、あの笑顔を取り戻せるように絵を描き続けていく。

 幼いなつみが、俺の絵を見て言ったこと。
 今になって思い出したんだ。

 ーーヒロくん、いつか私の絵を描いてね!私、自分が笑っている顔見たいのーー

 きっとなつみは、覚えていないだろう。

 俺の絵を見た時、驚いた表情をしていたから。
 それでもいい。俺が覚えているから。
 幼い時から途絶えた記憶。
 それもそのはずだろう。

 ヒロキは、電話をかけ始めた。

『 もしもし。来週そっちに行くから親父に伝えて』

 電話の相手は、妹だった。

 来週、家族での会話。
 久しぶりに顔を合わす親父は、いつも自分の思う通りに進まないと、許さない。
 そんな親父だ。
 だから俺は、距離を置いていたんだ。

 今さら、かっこつけるつもりもない。
 でも、好きな事を仕事にしたいと思ったんだ。

 少しずつ……少しずつ輝き始めている……
 なつみに負けないように。

 黙々とヒロキは、絵を描いてる。

 来週、俺の気持ちを伝えられるように……

 そして、絵を描き続けていくために。

 そんなヒロキの気持ちも知らずに、なつみは、お店へと急いでいた。
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