桜の木に寄り添う

自分のことのように

「 なつみちゃん!? 」

 向こうの方から、上重さんが手を振っている。
 リエは、ニコニコしながら車椅子を押してくれている。

「 待ってたよ!大変だったね 」

「 遅くなってすみません 」

「 いいのよ。急に呼んでごめんね。どうしても見て欲しかったのよ 」

 次は上重さんが、車椅子を押してくれてお店の中へと連れて行ってくれる。

「 わあ!!」

 内装が、私の思っていたよりもお洒落で素敵なお店になっていた。

「どう?なつみちゃん?ソファね、私が決めちゃってたからどうかなと思ってさ。嫌なら交換してもらえるのよ 」

「 物凄く素敵です。私こういうお店が良かったんです 」

「 良かったわ。私、歳だから趣味が違うかなと思っていたの 」

 照明もちょうど良い明るさで、嬉しくてたまらなかった。
 ここから、私はお客様を癒して笑顔にしなくてはならない。
 程よい緊張感で、私は楽しみで仕方がない。

「 上重さん、私はこれから額縁を買いに行きたいんです。ここに絵を飾ってもいいですか? 」

 この素敵な絵を、どうしても飾りたくなってしまったのだ。

「 ちょっと見たいわ。どんな絵なの? 」

 私は、荷物の中からヒロキくんの描いてくれたあの桜の木の絵を取り出した。

 上重さんは、じっくりとその絵を見ている。

 数分間だったのだろうか。でも私には凄く長い数分間に感じていた。

「 素敵ね。あまりにも素敵で驚いたわ。なんて言うのかしら。この絵を描いた人の想いが感じるわ。私には、この人の中でとても大事な1ページのように」

 大事な1ページ。
 ヒロキくんにとっても、大事な記憶の1ページだったのかな。
 もちろん私にとっても……

「 この絵を描いた人に、壁にも書いてもらえないかしら?きっと素敵なお店になると思うの 」

「 え?いいんですか? 」

 上重さんのアイディアに私はびっくりしてしまった。
 まさか上重さんが、こんなことを言うなんて……
 よっぽどの事だから。

「 聞いてみますね 」

「 急がなくても大丈夫よ。まだ工事も残ってるもの 」

「 はい。でも……嬉しいです 」

 私は、嬉しくてたまらなかった。
 まるで自分の事のように。

 ヒロキくんは、絵を描くお仕事するって言ってたし。
 喜んでくれるよね?きっと。

 リエと私はしばらくお店にいて、上重さんと話をしていた。

 ヒロキくんが、沢山の思いを抱え込んでしまっている事に何も気づいていなかった。
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