身ごもり政略結婚
「専務、このようなときに申し訳ございません。至急の電話が入っておりまして、専務しか対応できず……」
「わかった。結衣、すぐに戻るから。麻井、俺が戻るまでここにいてくれ」
「承知しました」
大雅さんは麻井さんと仕事の話を少し交わしたあと、私たちふたりを残して病室を出ていった。
「麻井さん、お忙しいのにすみませんでした」
「とんでもない」
彼は優しく微笑み、さっきまで大雅さんが腰かけていたイスに座る。
「ご無事でよかった。まさか専務があんなふうに駆けつけてくるとは」
「えっ?」
「前にも言いましたけど、そんな人間じゃなかったんですよ。仕事のためなら他のことはすべて切り捨てる冷酷な人間でした。まあ、そうなったのには理由がありますが」
彼はそう言いながらも口元を緩めている。
「でもホッとしました。先ほど私は別の重役について外出していたのですが……私が専務と一緒にいた秘書に連絡をして奥さまのことを耳に入れてもらったところ、すごい勢いで会議室を飛び出したそうです」