身ごもり政略結婚

彼女を抱くたび、『好きだ』と囁きそうになるのを何度こらえたことか。

しかし、どうしても心を開くのが怖い。

自分から政略結婚だと言い出したのに、結衣を愛してしまったら『千歳のために結婚しただけよ』と突き放される気がして、臆病になる。


彼女がもっと冷たい女なら……割り切れたのだろうか。

いや、でも結衣を選んだのは俺だ。

何枚お見合い写真を見せられても乗り気にはならなかったのに、どうせ結婚させられるなら彼女とがいいと思った。


千歳が閉店すると聞いたあの日、これは最高の機会なのかもしれないと無意識に感じ、麻井を飲みに誘って『結婚しようかな』と漏らしていた。


麻井は昔からの気のあう友人で、一歩仕事を離れると愚痴も弱音もこぼせる仲だ。

俺のことをよく知っているアイツは、『どういう気の変わりようだよ』と笑っていたが、その相手が千歳の店員だと話すと『やっぱりね』なんて言われた。
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