身ごもり政略結婚

今年は紅葉以外にも、さつまいもあんの上にようかんで形作った小さな紅葉の葉を何枚も重ねた〝秋色(あきいろ)〟という和菓子も並んでいる。

これは私がデザインを考えて採用された。


いつも新しい商品を売り出すときは、お客さまに買っていただけるか緊張を隠せない。


「いらっしゃいませ」


その日の最初のお客さまは、二年ほど前からひと月に一度は買いに来てくれる紳士だった。

歳の頃、三十を越えたくらいに見え、かなりの長身。
スリーピース姿が板についている。

それだけでなく物腰柔らかで、時折微笑む姿には品がある。

彼はいつもショーケースの端から端までじっくり見てから、気になる商品をいくつかチョイスする。

彼が選ぶ新作はなぜかヒット商品となることが多い。
だから私は、見る目があるのかな?と思っている。

私は〝秋色〟が彼の目に留まることを祈りながら、熱心にショーケースをのぞく視線をたどり、ソワソワしていた。
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