ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
以前同じことがあったなって思い出し、もしかしてと書斎を覗いてみると。
ビンゴだ。
椅子に放りだしたまま。
これじゃシワになっちゃうじゃない。
一緒に暮らし始めてからわかったけど、実は彼って割とルーズなのよね。
片づけが苦手。掃除も汚れたらすればいい、ってスタンスだし……
そこらへんの意識改革は必須よね、と心の中にかき留めながら、
手に取って。
「あれ?」
ぽろりと……口から声が、こぼれてた。
何かが、頭の端をかすめたから。
なんだろう?
オーダーメイドで仕立てた、濃紺のジャケットとズボン。
上質の手触りは、確かに彼のものだ。
でもなぜか、言葉にできない違和感を感じる。
履き慣れたスリッパの左右を間違えてしまった、みたいな。
そんな奇妙な、もどかしさ……
やっぱり気のせいか、と息を吐いた瞬間。
――喫煙席しか空いてなくてさ。全身タバコ臭いんだよね。
閃くように思い出した、昨夜の言葉。
そうだ、このスーツ……
タバコの臭いが、しないんだ。