ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

以前同じことがあったなって思い出し、もしかしてと書斎を覗いてみると。
ビンゴだ。

椅子に放りだしたまま。
これじゃシワになっちゃうじゃない。

一緒に暮らし始めてからわかったけど、実は彼って割とルーズなのよね。
片づけが苦手。掃除も汚れたらすればいい、ってスタンスだし……
そこらへんの意識改革は必須よね、と心の中にかき留めながら、
手に取って。


「あれ?」

ぽろりと……口から声が、こぼれてた。
何かが、頭の端をかすめたから。

なんだろう?

オーダーメイドで仕立てた、濃紺のジャケットとズボン。
上質の手触りは、確かに彼のものだ。


でもなぜか、言葉にできない違和感を感じる。

履き慣れたスリッパの左右を間違えてしまった、みたいな。
そんな奇妙な、もどかしさ……


やっぱり気のせいか、と息を吐いた瞬間。


――喫煙席しか空いてなくてさ。全身タバコ臭いんだよね。


閃くように思い出した、昨夜の言葉。
そうだ、このスーツ……


タバコの臭いが、しないんだ。


< 12 / 394 >

この作品をシェア

pagetop