わがままな美人
「似てると思ったのだけど、まあいいわ。来週末の祝賀会には、紗也華さんと一緒に行くでしょう?」
「行きませんよ。これは仕事の一環です。彼女──須藤さんを気にかける余裕などないでしょうから、悪印象を与えるだけですよ」
千秋はそう言って、ソファから立ち上がる。
「じゃあ今度、紗也華さんとの時間を別に設けてくれる? その約束をしてくれるのなら、私はさっさとおいとまするわ」
仕事に戻ろうとする甥を、伯母は逃がすまいとする目で見ている。
「…………わかりました」
この話は平行線をたどるだけだ。
今回は、自分が折れるとしよう。
「よかったわ! 早速紗也華さんに伝えておくわね」
上機嫌の笑みを浮かべ、寿子は軽やかな足取りで部屋を出て行く。
それを見送る千秋は、驚くほどに疲れていた。
***
スーパーで購入したお酒を冷蔵庫にしまい、そそくさと浴槽にお湯をため始めた香子は、テーブルに投げた茶封筒を手に取り、顔をしかめる。
差出人は母親。
これは一昨日、母親が言っていた見合い写真なのだろう。
まったく見る気が起きない。
このまま送り返したくなる。
「結婚する気ない、って言ったのに」
今は視界に入れたくないので、開封もせずに本棚の奥に押し込んでおく。
こんなもの、自分にはまったくもって必要ない。
でも捨てるのは気が引けるので、譲歩して隠すのだ。
「明日の用意、先に済ませとこ」
今日着たスーツをハンガーにかけ、別のスーツを取り出す。
それからバッグの中身をチェックして、問題がなければそのまま、玄関に置いておく。
「晩ご飯はどうしようかな……」
冷蔵庫の中には、日曜日に買いだめしておいた食材が、大人しく冷えている。
やはり節約と健康を考えれば、自炊が一番いい。
マンション購入を本気で考えるのであれば、今まで以上に貯金をしなくては。
まあ、もともと金遣いが荒いわけではなく、むしろ計画的な方なので、金欠に陥ることはないが、貯金が増えるのは素直に喜ばしいことだ。節約するに越したことはない。
「焼肉のたれで炒めるか」
冷蔵庫から適当に取り出した野菜と、豚バラ肉。
これを全部、便利な焼肉のたれで炒めてしまおう。ご飯は予約炊飯しておいたので、もう炊けている。いつでも食べれる状態なので問題なし。
こういうとき、一人だと本当に楽。
家族がいると、作るものを考えなきゃいけないし、親と一緒だとアレも食べろコレも食べろと口うるさい。
一人なら、何を作って何を食べるのも自由!
もちろん、栄養面は考えないといけないけど、些細な一瞬に、一人って楽だなあ、と実感してしまうのだ。
「あの名刺、どうしよう」