恋愛コンプレックス
変な体勢で寝ていたせいか体が痛い。
ギシギシと油の乾いたブリキのような音を脳裏に聞きながら、私は上司の元へ企画書を持っていった。今、ジュエリー部も含め会社が一部上場しているせいもあって、ここのところ上からも下からも圧迫されている気の弱い部長がてんてこまいになっているせいで、私の配属されている企画部は、そんな部長に同情して連日企画書に追われる破目になったのだ。
 そもそも現実を知らない上の方のハゲたちが「打倒マ○!」なんてジュエリーの大手を分を弁えもせずに吠え出したことが発端で、そのせいで平和に自由な発想を立案し続けた我部署は尻を叩かれる思いで斬新で尚且つ誰もまだ踏み入れていない発想を求められると言う無茶ぶりを強いられている。
 
 「前田君、何だか顔色が悪いみたいだが連日の残業で無理をしているんじゃないかい?」

 企画書に目を通すよりも先に、部長は露骨に心配そうな顔で言った。
さすがに飲み明かしたせいだとは言えずに、私は曖昧な反応を見せてから企画書を押し付ける形で逃げるようにデスクに戻った。
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