課長、恋しましょう!
ドアが開いちまえば、そこはもう人目につくオフィスだ。

俺は出かけた言葉を飲み込んで、エレベーターから一歩踏み出す。ちぃと増えた俺の体重に、革靴がぎぅと鳴いた。

「課長ー」

と彼女がついてくる。

「なに言いかけたんですかっ、ね、なに言いかけたんですかあ?」

「うるさい。もうオフィスだぞ」

「もう、意地悪な課長」

つんとそっぽを向いて、彼女は歩みを早めた。軽やかな足取りと魅惑的なヒップラインが、さっさと離れていく。

そりゃあお前、そんな体を前にして見ろよ。こう、目をそらすにそらせないだろうよ。

そんなこと言いかけたのは秘密だ。ついでに言うのなら、俺と彼女が恋人だというのも、一応、これでも秘密だ。
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