幼馴染は恋をする
テーブルにお皿を出して、焼いたホットケーキを食べた。ジュースも飲んだ。バターを乗せてメープルシロップをかけて食べた。凄く美味しかった事は覚えている。
きょうだいが居るっていうから俺は男の子だとばっかり思ってたんだ。姉ちゃん達は学校の事や友達の話、教育実習の若い男の先生の話をしたりしてキャーキャーと楽しそうだった。俺はホットケーキを食べたらすることがなくなった。

「…ごめん」

ともちゃんが小さい声で言った。急にどうしたのか解らなかった。俺は何て言ったらいいかも解らなかった。

「…がっかりしてたから、ごめんね」

あ。

「ともって、…見たら私で…」

だからだ。怒ってるような顔に見えたんだ。

「あ、違うよ。だったらごめん」

「何?」

「あ、うん。俺だって、女の子じゃなくて。がっかりしたよね」

「あ」

「うん」

フッと笑った。俺も笑った。俺はともちゃんのその顔を凄く覚えてる。機嫌が悪かったんじゃなくて不安だったんだ。俺みたいに友達の兄弟も来るって感じで聞いてたんだ。それはきっと女の子が来るって思い込んでた。あんまり興味もないから詳しく聞いておこうとも思わなかったんだ。俺だって知らない家に来てきっと似たような顔をしてたんだ。同じだ。全部同じだ。

「中学、一緒だね」

あ、そうだ。

「そうだね」

そうだ、中学は一緒になるんだ。俺も六年生にしてはデカイんだけど、ともちゃんも身長が高かった。並ぶとちょっと俺がデカかった。うちの学校の女子とはちょっと違う感じがした。ともちゃんは何ていうかあんまりニコニコしなかった。

後片付けをして帰った。姉ちゃん達は有意義だったかもしれないが俺達にしてみたらただホットケーキを食べただけの時間だった。大した話もせず時間を持て余しただけだった。

それっきりだ。ともちゃんとは中学になるまで会う事はなかった。
姉ちゃんの話の中に登場する事はあっても、うちに来る事はなかった。ともちゃんのお姉さんが来る事はあってもいつも一人でだった。
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