“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
「エリー、本当にありがとう」

「いえ……」

薔薇を挿し木にしたことについて、言おうかどうか迷った。しかし、またダメになる可能性もある。落胆しているアリアンヌお嬢様を見ていたら、二度と同じ思いをさせてはいけないと思った。だから、今日のところは言わないでおいた。

「この薔薇、本当に、きれいだわ。あまりにもきれいだから、涙が引っ込んじゃった」

「そのように喜んでいただけて、嬉しいです」

あわく微笑んでいる様子を見て、前世の記憶を思い出して本当によかったと思う。

前世の記憶がなかったら、挿し木についても思いつかなかっただろう。プリザーブドフラワー作りについてもだ。

姉達の私物を羨むあまり、美容品に詳しくなり、美容系の会社に就職して、しまいには自作するようになった。

そのすべてが今、役立っている。前世の記憶が、アリアンヌお嬢様を笑顔にしているのだ。

「エリーは不思議な人ね。なんでも知っているのに、偉ぶっていなくて、欲もないように見えて、空気みたい。もちろん、いい意味でよ」

「ありがとうございます」

「その顔、喜んでいないでしょう?」

「……」

正直にいえば、空気みたいという評価はあまり嬉しくない。ミシェル様やラングロワ侯爵家の大奥様にも言われたことがあるけれど。

「何が気に入らなかったか、白状させるわ!」

「なんでもないですよ」

逃げたら、追いかけられてしまった。

「待ちなさい、エリー」

「ご勘弁を~~!」

しばらく私達は、なんてことのない理由で追いかけっこをする。

アリアンヌお嬢様が笑顔だったので、私は徹底的に付き合ったのだった。
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