“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
エプロンドレスのお仕着せをまとい、魔法で髪を黒に染め三つ編みのおさげにして、牛乳瓶の底みたいに分厚い眼鏡をかける。肌にそばかすを散らしたら、地味なメイドの完成だ。

調査対象は、レティーシア様、ルメートル公爵、デルフィネ様の三名。

「ミシェル様、レティーシア様の専属騎士のロランさんは調べなくてもいいのですか?」

「あれは、いい。必要となった時は、私が直接調査する」

「承知いたしました。では、行ってまいります」

「エリー、無理はするな。危険だと感じたら、すぐに戻れ」

「了解です」

ミシェル様が用意してくれた紹介状を持って、公爵家の裏口を目指す。公爵邸内を歩き回れるよう、洗濯メイドとして働くようだ。

緊張しながらも、裏口の扉を叩く。すぐに返事があった。ひょっこりと顔を覗かせたのは、十六歳くらいの若いメイド。紹介状を見せると、すぐに案内してくれた。

「あんた、名は?」

「マリーです」

マリーという偽名は、ミシェル様が考えてくれた。エリーと似た名前だと、私がうっかり言い間違ってもそこまで違和感を覚えないだろうという狙いがあるようだ。

「マリー、いい? 一回しか言わないからね。そこが厨房、そっちはリネン室、あそこは蒸留室で──」

業務連絡は早口でまくし立てられる。

「あ、魔法は絶対使ったらダメだからね! 奥様が、反魔法派なの。バレたら速攻首だから」

「わかりました」

「不便だと思うけれど、頑張って」

「ありがとうございます」

簡単に掃除についてザックリ説明され、来て十分も経たずに二階の廊下掃除を言い渡された。
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