“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
そして──レティーシア様が初めて離れを訪問する。

「アリアンヌお義姉様、お招きいただきまして、光栄に存じます」

レティーシア様はドレスの裾を摘まみ、美しい会釈を見せてくれた。

「かしこまらなくてもけっこうよ。レティーシア、来てくれてありがとう」

アリアンヌお嬢様は、晴れ晴れとした笑みを浮かべている。一方のレティーシア様は、緊張しているのか表情が硬い。

本日のレティーシア様は、紫色のドレスに芸術品のように形が整った縦ロールをハーフアップにしている。実に、気合が入っていた。

そんなレティーシア様はぎこちない様子で、護衛騎士のロランに持たせていた花束をアリアンヌお嬢様に手渡した。

「あの、これを、アリアンヌお義姉様のために、摘んできましたの」

それは、可愛らしいノースポールの花をベルベットのリボンで束ねたものだった。

なんていうか、派手な顔に似合わずささやかな贈り物を用意したようだ。

よくよく確認したら、花を束ねたリボンは髪飾りと一緒のものだ。左右に結んだリボンのうちの、片方がない。もしかして、急ごしらえで用意したのか。

「あ、ごめんなさい。私、初めて自分で贈り物を用意しまして……。こんなその辺に咲いているような花なんて、いらな──」

「うれしいわ! ありがとう!」

アリアンヌお嬢様は、両手でレティーシア様の花束を持つ手を包み込んだ。

「わたくしのために、手を土だらけにしてまで摘んできてくれたなんて……本当に嬉しいわ」

「あ、ご、ごめんなさい。汚れていたなんて、気づいていなくて」

必死になって、花を探して摘んだのだろう。

ノースポールの花言葉は『高潔』。姉妹にぴったりな花なのかもしれない。

すぐさまノースポールの花は花瓶に生けられ、円卓の上に置かれた。
< 202 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop