“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
「それ、使ってもいいんですよ」

「え?」

「私も、その石鹸で体を洗っています」

ミシェル様と同じく、ここで住み込みで働いているメアリーさんもアリアンヌお嬢様と同じお風呂を使っているようだ。

「それって、メアリーさんだからじゃないですか?」

「いえいえ、そんなことないです。以前まで勤めていた侍女にも、使用していいと許可を出しておりましたし」

「そうですか」

浴槽の湯をたらいで掬(すく)い、石鹸を濡らす。そして、表面を摩(さす)って泡立ててみた──が、まったく泡立たない。

今まで使っていたどの石鹸よりも、匂いは薄いし泡立たなかった。

期待していた分、深く落胆してしまう。その思いは、叫びとなって発散されてしまった。

「な、なんで、この世界の石鹸は、こうなのーーーー!」

そんなふうに声を上げた瞬間、脳内に今までなかった記憶が流れ込んできた。

──私は日本で生まれた生粋の日本人、草原英梨(くさはらえり)。

手作りコスメやバス用品作りが趣味で、好きが高じてフランスに本社を置く、化粧品・バス用品の店舗で働いていた。

それから、それから──。

あまりの豊富な情報量の多さに、私は意識を失ってしまった。
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