新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
そういえば、と思い出して見てみると、私がリビングに置いたままだったマグカップも、きちんと洗ってカップボードにしまってあった。

あんな、感じ悪い態度取っちゃったのに……それでも皐月くんは、こんなにも優しい。

だけど、この優しさは、“奥さん”に向けたものじゃなかった。

単なる、同居人として。利害の一致で結婚を決めた、同期として。

しんと静まりかえったキッチンで、サンドイッチとプリンを食べる。

せっかく皐月くんが買ってきてくれたそれらは、こんなふうにひとりで食べているとなんだか味気ない。

そうしておなかが満たされた私は、さっきまでは考えようとしなかった──この契約結婚に対する、不明瞭だけれどどこか確信的な、釈然としない疑念を抱く。

“私”は……本当に、この契約結婚に賛成したのだろうか。

皐月くんが嘘を着いていると、疑っているわけじゃない。

違和感を覚えるのは……“私”自身の、言動の方だ。

大好きなお店のプリンも、長く使っている白いチェストベッドも、変わらずに下手くそなままの絵も。

ひとりの人間としての私と“私”には、7年分の記憶の他に、あまり大きな違いなんてないように思えるのだ。

そして今の自分は、周囲の大切な人たちを欺いてまで──好きではない人と偽りの結婚をするなんて、できるわけがないと考えている。



「……ちゃんと、確かめなきゃ」



ひとけのないキッチンで、小さくつぶやく。

納得できないこの疑念を晴らすため、私はひそかに行動することにした。
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