新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
小さなショルダーバッグだけを身につけて、私はマンション近くの公園へとやって来た。

記憶を失うキッカケになった、あの階段がある場所だ。

日中ならば子どもたちの遊ぶ姿もあるのだろうけど、そろそろ日没を迎えるこの場所には人影もなく、生ぬるい風が肌を撫でる。

バッグの中には財布とスマホ、そして日記帳が1冊。

部屋から持ち出したそれは、日付が去年の初めからになっているものだ。

目の前に噴水が見えるベンチに腰を下ろし、日記帳を取り出した。

表紙をそっと開いた私は答え合わせをするように、中に書かれた文字を目で追う。



【2018年2月3日(土)

びっくりするくらい、越智くんとの結婚生活の準備がトントン拍子に進んでいる。
今日は入籍後に一緒に住むマンションを見に行った。綺麗だし、駅からも近くてすごく気に入った。
これだけいろいろと結婚に向けて動いてはいるけれど、未だに信じられないと思う自分もいる。
朝、目が覚めたら、全部夢だったなんて……そんなこと、絶対に起こらないで欲しい。】



【2018年4月2日(月)

今日は退職関連の書類と辞令を受け取るためと、いろいろ返却するものがあって本部へ。
本当は気が引けていたけど、越智くんに渡すものがあったから融資部に顔を出したら、案の定ものすごく冷やかされた。融資部の人たちってお堅いエリートばかりのイメージだったけど、あんなふうにふざけたりもするんだなあ。
バッサリ髪を切ってイメチェンした私を見て、越智くんはとても驚いていた。少しでも、好みに合ってたらいいんだけど。
明日は越智くんの仕事のあと待ち合わせて、一緒に結婚指輪を選びに行く。
まさかちゃんと買うとは思ってなかったけど、考えてみれば少しでも違和感を減らすためカモフラージュするには必要なのかもしれない。
理由はどうであれ、楽しみ。】
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