新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
最後に……いい思い出が、できた。



「……そろそろ、帰らなくちゃ……」



つぶやいてはみるけれど、重い腰が上がらない。

家に戻って、夕飯の支度をして……皐月くんが帰ったら、記憶が戻ったことを知らせなくてはならない。

そうしたら、今度こそ私は、彼に別れを告げる。

あの事故の日にできなかったことを、今度こそ──……。



「礼っ!!」



ビクリと肩が震える。反射的に首をめぐらせた。

大声で私の名前を呼んだその人物は、噴水の向こう側からこちらを見ていた。

辺りが薄暗くなっているとはいえ、見間違えるはずがない。

私が驚いている間にも、人影は足早に目の前までやって来る。

その勢いのまま、力強く私の両肩を掴んだ彼を──皐月くんを、呆然と見上げた。



「皐月くん……」



ポツリとつぶやくと、皐月くんは荒い呼吸を整えながら、眉を寄せて顔をしかめる。

彼は仕事に行ったワイシャツとスラックス姿のままで、記憶を失くしたあの事故のときと重なった。
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