新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
もしかして、ほんとにこのまま記憶が戻らないの?

29歳の身体に、22歳の中身の……このちくはぐな状態を、受け入れていくしかないの?

そして元来アクティブな性格の私は、いくら療養のためとはいえずっと家で大人しくしていることもそろそろ苦痛になってきた。

だって、身体はもうすっかり元気なのだ。
お医者さんだっていろんな刺激を受けるのが必要って言ってたんだから、事故前と同じように働く方が、記憶を取り戻すためにも絶対いいよね?

そんなわけで、私は皐月くんに仕事に復帰したい旨を相談し、心配してくれる彼をなんとか説き伏せて再びこのカフェで働き始めたのだ。
事情を知っても変わらず雇い続けてくれた古都音店長には、頭が上がらない。

ずっと実家で手伝いもしていたおかげか、この店で働いていた記憶がない今も、思っていたよりは苦労せずにカフェ店員の仕事をこなせている。

というか、深く考えるまでもなく勝手に身体が動くというか……頭の中では覚えていないはずなのに、身体に染みついてるのかな。あまり店長に迷惑をかけることがなくて、安心したけど。

このお店のウリは、1杯1杯丁寧にハンドドリップで淹れる自家焙煎コーヒー。

店長が手作りする軽食やスイーツも人気で、レンガ造りの隠れ家的建物は大通りから外れた少しわかりにくい場所にあるにも関わらず、1日に訪れるお客さんは多い。

使う食器にもこだわっていて、たくさんあるカップとソーサーはなんとひとつひとつデザインが違う。
店長の知り合いの陶芸家さんが作ってくれたものらしい味のあるこのカップたちは、私もすでにお気に入りだ。
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