恋、花びらに舞う

『朝比奈レーシングスクール』 に在籍する若手がジュニア選手権に入賞するようになると、和真はいよいよ忙しくなった。

小中学生のクラスもできて、幼いころから才能を磨く場への入校希望者は国内外から後を絶たず、『朝比奈レーシングスクール』 は難関と言われている。

上級クラス選抜メンバーの海外遠征には、必ず和真が同行する。

そして、大学の夏休みに入った由梨絵が和真のもとに出かけるのも恒例になっていた。



『今年の夏は熱波がすごい。ゆう、スカーフを忘れるなよ』


『そんなこと、あなたに言われなくてもわかってる。みんな、元気にしてる?』


『あぁ、元気だ。じゃぁ、待ってる』



とりとめのない会話でも、出発前の電話はふたりにとって大事な習慣になっていた。

現地の空港で由梨絵を出迎えるのも和真の役目になっており、これもずっと変わらない。

日に焼けただろう和真の顔を思いながら、由梨絵は出発カウンターに向かった。

その途中、ロビーに並んだ向日葵の鉢植えが目に入った。

夏を演出するために置かれたのだろう鉢植えは、大輪の黄色い花をたたえている。

花びらの大きさに目を奪われながら、和真と過ごした去年の夏を思い出した。

休日に訪れた地で見た向日葵畑は圧巻だった。

ふだん花に頓着のない和真も見渡す限り広がる黄色い花の美しさに見とれていたが、「日本の桜の方が勝ってるな」 と妙な対抗意識を持ち出して由梨絵をあきれさせた。

向日葵に風情は感じられない、満開の桜と風に舞う花びらはいいよ……

そうつぶやく横顔は、由梨絵と出会ったころを思い出していたにちがいない。

一年前のことを鮮明に思い出した自分に笑みがこぼれた。

笑顔をたたえたまま、由梨絵はカウンターの前に立った。



「朝比奈由梨絵さま、おひとり様でございますね。承りました。

ミラノマルペンサ空港まで、お荷物をお預かりいたします。行ってらっしゃいませ」



ありがとう、と告げた由梨絵は、向日葵に見送られながら出発ラウンジへ向かった。

 

                   ・・・ 完 ・・・

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