都の剣〜千年越しの初恋〜
城から一時間ほど離れた場所に、その旅館はあった。見るからに高級とわかる立派な瓦と佇まいだ。

沙月は緊張する胸をそっと押さえた。葉月のことは、イザナギから神々に連絡はされているはずだ。しかし、日本には自然界のありとあらゆるものに神々が存在し、八百万の神とも言われている。たくさんいる神様全てに連絡が届いているのか、沙月は緊張していた。

「行くぞ」

葉月が沙月の隣に立ち、力強い笑みを浮かべる。沙月も頷き、二人は旅館の中へと入って行った。

旅館の女将が出迎えてくれて、沙月と葉月を部屋へと案内する。ここは神々が休まる旅館で、多くの神様から贔屓にされているそうだ。

旅館は三階建てだ。神々たちは、三階の一番奥の部屋に集まっているらしい。そこは景色もよく、とても人気の部屋だと女将が話していた。

「失礼いたします。お客様がお見えになられました」

襖を三回で開け、丁寧に女将は言う。部屋の中はとても賑やかで、沙月の緊張も少しほぐれた。
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