また、いつか
「姫、明日、私は国元に戻ります。
しばらく寂しい思いをさせますが、良い子で待っていてくださいね」

優しくそう言うと、治憲は幸姫の髪を撫でた。


大名である治憲は、参勤交代で1年おきに江戸と国元を行き来しなくてはならない。

江戸の幸姫の側で過ごして1年。

明日にはまた国元に発たなくてはならない。

もう、何度もそんなことを繰り返せば、幼な子のような幸姫にも『国元に戻る』という意味はわかるだろう。

この優しい人に会えなくなってしまう。

そう思っただけで、幸姫の胸は引き裂かれるようにキリキリと痛んだ。

治憲の顔を見上げると、瞳を潤ませ、いやいやと被りを振る。

そのまま治憲に抱きつくと、いやいやをしながら泣き出してしまった。

「姫、私と離れるのは寂しいですか?」

治憲は幸姫の髪に顔を埋めると、彼女の華奢な体をやんわりと抱きしめた。
< 3 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop