焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新


「……本当にそれだけ?」

さすが琴美、鋭い。

「当たり前でしょ。食器ある程度片づけよ」

「はいはい」

琴美にこれ以上バックヤードで何があったのか追及されるのは避けなければならない。

たまに意味ありげに向けられる視線にも気づかないふりをして、片づけを続けていた、ら。

「あ、樹季!お疲れ様」

今この場で、聞こえるはずのないソプラノが響いた。

この、華やかな声の持ち主は。

「亜里沙。なんでいるんだ?」

成宮さんが驚いて声をかける。

亜里沙さんの後ろには、見知った男女が1人ずつ。

このメンバーは、今回打ち上げを開催する理由にもなった新規案件のクライアントチームだ。

「ああ、俺が誘ったんだ。せっかくだから人数も多いほうがいいだろ?」

瀬戸さんが亜里沙さんたちに挨拶する様子をみて、周りにいた人たちもそれに倣う。

「さっき連絡をいただいて、ちょうど空いていたので遊びに来ちゃいました」

初期から案件に参加していた男性社員が説明してくれる。

それに続いて亜里沙さんも軽く挨拶をすると、『綺麗、美人』という声があちこちから響く。

「あ、こちらへどうぞ」

琴美のアイコンタクトで3人分のお酒などをすぐに用意する。

皆突然のことではじめは驚いていたものの、お酒が入っていることもあってかすぐに取り囲んだ。

けど亜里沙さんはうまくその輪から抜けて、成宮さんのもとへ歩み寄る。



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