今宵、貴女の指にキスをする。

 木佐円香、二十九歳、独身。ワンレングスのミディアムボブの髪は黒く、まっすぐだ。
 円香が唯一自信を持っているパーツでもある。

 背丈はごくごく標準。体型はどちらかというとスレンダータイプだろうか。
 だからといって色気があるかと言われれば、悩んでしまうほどだ。

 思った事を人に伝えることが苦手で、なかなか感情が伝わらないという欠点が円香をずっと悩ませている。

 だからこそ、円香は小説を書く。
 心の内では激しいことを考えたり、意思の強いところもあるということを他人に知ってもらいたいという願望から始めたことだ。

 初めは趣味の範囲で執筆し、誰に見せる訳でもなく、ただ自己満足のために書き続けていた。

 そんな円香だったが、何をそのとき思ったのか。
 A出版が主催する文学賞に気まぐれで応募したのがきっかけだった。
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