今宵、貴女の指にキスをする。
「次回作の意欲に繋がるようでしたら、どれだけ妄想していただいても結構ですが、木佐先生のお考えはハズレです」
「えー? そうなの?」
残念そうに声を上げる円香に、七原は神妙な顔で大きく頷く。
「私には付き合っている男性もいますから。木佐先生の予想は大外れなんですよ」
「へぇ……それは、今度詳しくお話を聞かせてほしいな」
「っ……け、検討しておきます」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く七原はとても可愛い。
円香はフフッと笑い声を出しながら、目尻いっぱいに皺を寄せる。
だが、それならどうしてあんなに堂上に対して七原は刺々しい態度を取っていたのだろうか。
不思議がる円香に、七原は厳しい表情を浮かべる。
「木佐先生、堂上課長には充分気をつけてください」
「え……?」
A出版主催のパーティーで再会したときも堂上は意味深なことを言っていたし、今日も突然会議室に現れて円香を混乱に陥れた。
パーティーでの出来事はリップサービスやからかいの一種と片付けていた円香だったが、今日の様子を見る限りそうは言っていられないのかもしれない。
真剣な面持ちになる円香に、七原は固い表情のままで言う。