今宵、貴女の指にキスをする。

「俺は今日はスタッフに徹するから」
「わ、私一人で体験するんですか?」

 これではお店の人に悪くはないだろうか。
 円香一人分の体験料で職人さん一人貸し切り状態。
 さすがにご迷惑では、と切り出した円香に職人さんは首を横に振る。

「今日は木佐先生の体験取材と、もうひとつA出版さんからの取材も込みですから」
「え?」

 円香は後ろにいる堂上を見ると、カメラとともにボイスレコーダーも取り出した。

「月刊誌に○○堂さんの記事を載せていただく予定だからな」
「は、はぁ……」
「抜かりなし、ってヤツだな」

 そつがないとはこういうことを言うのだろう。さすがは堂上と言うべきか。
 大物作家を相手に編集をしているだけあって、仕事はできるのだろう。
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