拝啓 元カレ上司サマ
そんな夫の言葉に真っ赤になった顔を見られないよう、反対側を向いた麗香の目に入ったのは、ショックを何とか隠して貼り付けたような笑顔を見せる煌太であった。
少し驚いて岡谷課長…と呟いた麗香に、先ず反応したのは夫である宗也だ。
「これは秘書の岡谷課長、良いところでお会いしました」
さも取って付けたような物言いに違和感はあるけれど、麗香は二人のやり取りをただ黙って見ていた。
何故なら、忘れていた心の奥底に隠したはずの煌太への想いが、そしてもう宗也によって上書き保存されたはずのほんの僅かな想いが、ひょっこり顔を出さないよう、細心の注意を払う必要があると感じたから。