Love Eater
当然、状態が緩和したわけではない。
寧ろ気が焦るまま駆け続けていた体は益々の熱を帯びているし息苦しい。
とにかく、熱い。
熱い、熱い、熱い……。
そんな自分の身体の発熱に流石にかけ続けていた足も止まるというもので、止めてしまえば今度は処理に困る激しい動悸でふらりとその場に膝をついてしまったのだ。
幸い、賑やかな大通りから外れた裏路地での事。
六花が毎度自分を誘い込むのはこういう人っ気のないところが多かったからだ。
膝をついてしまえば途端に症状に拍車が効いて、内部から溶解する様な熱に胸元をギュッと掴んでしまう程。
そんないよいよ動くことがままならぬソルトの内側ではとうとう不満の大爆発が起こり始めるのだ。
本っ当……あの女と絡むと碌な事がねぇぇぇ!!
媚薬とかまじふざけんな!!
興奮させといてイかせねえとかどんな拷問だよコンチクショウ!!
あー!!!もう、熱い熱い熱いっ!!
眩暈すらしてきやがったし、ドクンドクン脈が滾る音も耳障りだ。
とにかく……欲しい。
食らいたいっ。
腹が減ってるわけじゃねえのにとにかく飢えて飢えて仕方ねえ。
クソッ、全部あの女のせいだ。
そうだよ、あの女のっ……
あの女……。
ああっ、あのくそ女っ……
っ……
『六花ぁっ!!!』
そんな感情からの咆哮は内側に留まらず聴覚を確かに擽る音となった筈であるのに。
叫んだ本人であるソルト自身、どうにも自分の叫びに違和感を覚えて我に返ったのである。